東京地方裁判所 平成3年(ワ)7511号 判決 1992年8月31日
原告
長井幸重
右訴訟代理人弁護士
鍋谷博敏
同
武田聿弘
被告
岩本光雄
右訴訟代理人弁護士
加藤眞
主文
一 被告は、原告に対し、金三〇万円及びこれに対する平成三年六月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告の被告に対するその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを一〇分し、その九を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金一〇〇〇万円及び内金一〇〇万円については平成三年六月一四日から、内金九〇〇万円については平成四年二月二〇日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一当事者間に争いがない事実
1 原告は、訴外瀬田英一(以下「瀬田」という。)から東京都板橋区<番地略>の宅地の一部を賃借し(以下「本件賃借地」という。)、同土地上に事務所(以下「原告事務所」という。)を建築しており、被告は、本件賃借地の隣地である同所<番地略>の宅地(以下「本件隣接地」という。)の所有者である。
瀬田と被告との間においては、本件賃借地と本件隣接地の境界をめぐる紛争が発生し、瀬田が原告となって、被告を相手方として、当庁昭和六三年(ワ)第一一五五九号土地所有権確認請求事件(以下「別件」という。)が提起された。
2 被告は、瀬田に対し、以下の内容を記載した私信を発信した。
(一) 昭和六一年二月一四日付手紙(以下「本件私信(一)」という。)
「有賀工務店の豊田監督の言に依れば(原告は)、板橋で一番違反の多い設計事務所だと言っております。私に対しても意地の悪いことをすれば、私も腹にすえかねたら、これから長井さんがやる仕事を意地になって監視するかも知れません。」
(二) 昭和六三年五月一三日付手紙(以下「本件私信(二)」という。)
(1)「長井氏は佐渡の相川の出身ですが四件程境界の問題を起し、新潟市の田中登氏(相川の隣地の方)との境界を一間も越して浄化槽を作って」
(2)「相川では高等科を卒業後おばにあたる坂本工務店に入店致しましたが、身体が弱かったので大工仕事にむかず設計を勉強し今日になったとのことで、いとこの現坂本工務店社長は、東京で仕事がないのか最近坂本工務店の得意先を荒らして居るので恩知らずのひどい奴で人間ではなく、悪鬼だと新潟市の田中登氏に話したとのことです」
(三) 平成元年九月二九日付手紙(以下「本件私信(三)」といい、本件私信(一)、本件私信(二)及び本件私信(三)を一括して称するときは「本件各私信」という。)
(1)「建築の紛争は新潟で五件やっていますが、その一つです、五件の内の一件は町道にはみでて建築をしました。部落では大うそつきの庄九郎というあだ名がついていて、新潟丈でなく、東京でもごたごたしているのかと有名な話になっているそうです。長井氏のおじいさんがうそばっかりついていたし、又その弟は新潟市で露天商をしていて大変評判の悪い人だったとのことです、学歴はある団体には某工業学校卒、ある団体には某大学卒となって居て学歴を詐称して居ります、学校は分かっておりますがあえて某と書きました。兄弟二人で仲が悪く義絶していて弟は死んでしまいまして今一人です」
(2)「世話になったおばの家の得意をあらしていて、いとこは大変おこって、くやしがって居るそうです、」
(3)「義理も人情もなく、良心の一かけらもなく手段をえらばず金もうけをしたのかと土地の人にいわれています、東京で大成功し大金持になったといっているとのことです、」
3 被告は、別件において、「訴外長井幸重は、四五番の一(所有者原告本人)の一部(即ち、同番の左上)を賃借して賃貸建物を建築した訴外立花美波との間に、又もや境界を争っている。そのほかに、訴外長井は、34点および38点を結ぶ境界につき、四六番六の上に三階建建物を所有する館野倉次との間に境界を争っている。」との内容を記載した平成二年九月五日付け準備書面(以下「本件準備書面」という。)を提出した。
二原告は、一2、3記載の本件各私信及び本件準備書面によって、原告の名誉が棄損されたとして、損害賠償を請求する。
第三争点
本件の争点は、本件各私信及び本件準備書面中の第一3の各記載事項の違法性の有無及び記載事項の真実性(真実性の根拠)の有無であり、被告の主張の要旨は、次のとおりである。
一本件私信(一)については、被告は、平成三年七月一九日に板橋区建築課を訪問し、同課から原告の設計事務所に問題が多いことは確認しており、また、自己の係争権利を保全し、原告の侵害行為を排除するため、第三者の伝聞供述を事実上の当事者であった瀬田に対して発したメッセージにすぎず、違法性はない。
二本件私信(二)及び本件私信(三)については、自己の係争権利を保全し、原告の侵害行為を排除するため、原告をよく知る訴外田中登(以下「田中」という。)からの話を真実と信じて、瀬田に伝えた私信にすぎず、違法性はない。
三本件準備書面については、事実を指摘したものであり、また、別件の被告代理人が現に主張し、かつ、証明を準備している間接事実又は事情について、本件において重ねて審判の対象とすることは許されないし、訴訟経済にも反し、乱訴というべきである。
第四争点に対する判断
一本件の経緯
当事者間に争いがない事実に、<書証番号略>、原告及び被告各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、被告本人尋問の結果中、右認定に反する部分は採用することはできず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
1 昭和五二年ころ、原告は、本件賃借地上に原告事務所を建築し、昭和六〇年七月ころ、被告が本件隣接地上にブロック塀を建築したが、原告事務所のバルコニーが一部右ブロック塀と重なっていたことから、被告が右バルコニーが本件隣接地に侵入していると主張して、原告と被告との間で本件賃借地と本件隣接地間の境界をめぐる紛争が発生した。
2 昭和六一年二月一二日ころ、家屋調査士佐山政昭(以下「佐山」という。)が、瀬田、原告、被告及び本件賃借地の北側に隣接する土地の所有者である立花美波(以下「立花」という。)の立合いで、本件賃借地付近を測量したが、被告は、佐山がした測量に不満を持ち、同月一四日ころ、瀬田に対し、佐山に対する批判の記載を含む本件私信(一)を出した。
3 被告は、佐山の測量の結果に満足せず、本件訴訟の訴訟代理人を申立代理人として、昭和六一年四月、豊島簡易裁判所に対し、瀬田、原告及び立花を相手方として、本件隣接地の所有権確認及び原告に対して原告事務所のバルコニーの撤去を求める調停を申し立てた。右調停において、鑑定人土地家屋調査士佐野逸夫が測量し、「鑑定報告書」を作成、提出したが、右報告では、原告事務所のバルコニーは、被告の本件隣接地には突出していないと判断され、被告の主張に沿わなかったため、調停は不調となった。
4 原告は、新潟県の原告の実家方の隣人である田中を相手方として、昭和六二年一一月ころ、原告方と田中の各土地の境界について、境界確定訴訟を提起した。
5 被告は、田中とは面識がなかったが、昭和六三年四月ころ、田中から、右4の訴訟や原告の経歴等に関する話を聞き、そのうちの数個の事実を本件私信(二)に記載し、同年五月一三日ころ、瀬田に郵送した。
6 瀬田は、同年八月、東京地方裁判所に、別件を提起した。
7 被告は、平成元年九月二九日ころ、瀬田に対し本件私信(三)を郵送した。
8 原告は、平成三年三月、別件に補助参加した。瀬田は、従前、原告に対しては、本件各私信が被告から送られたことを明らかにしてはいなかったが、原告が別件に補助参加した後、原告に対し、本件各私信を見せた。
二本件各私信について
1 本件各私信中の争点に係る事実が、原告の名誉を棄損するものであることは、その記載自体によって明らかである。ところで、名誉棄損行為に係る不法行為責任の成否については、一般に、摘示した事実の公共性及び公益目的の存在を条件として、右事実が真実であることが証明され又は摘示した者においてこれを真実であると信じるについて相当な理由があったと認められる場合は、摘示した事実が人の名誉を棄損させるものであったとしても、右行為の違法性が阻却されると解されるところ、そもそも当該行為が、名誉棄損行為として違法性を帯びるか否かの判断に当たっては、摘示した事実の種類・内容、公共性の有無・程度、右事実の真実性又は摘示した者において真実であると誤信した事情・理由の有無、摘示した際の状況、行為者と被害者とされる者との関係、摘示の方法・態様、摘示の目的等各事情を綜合考慮して、違法性の有無を決するのが相当である。そして、多数関係者間に関係する紛争が生じて裁判が提起され又は裁判に至る蓋然性が高い場合において、その紛争関係者間の一人が、他の関係者に対して私信をもって、ある紛争関係者についての情報を提供するときには、その提供された情報が、右紛争関係者に対する名誉棄損に当たるとしても、行為者がその主要な事実を真実であると信じるについて相当な根拠があると認められる限り、違法性を阻却するものと解するのが相当である。けだし、多数関係者間に紛争が生じている場合においては、紛争関係者間において、他の関係者の言動の信用性等について、右の限度の情報を提供して訴訟における協力関係を求めることは、社会的に相当なものとして是認されるべきだからである。
2 被告は、本件各私信について、自己の係争権利を保全し、原告の侵害行為を排除するため、第三者の伝聞供述を、瀬田に対するメッセージとして又はこれを真実と信じて私信としてこれらを発したにすぎず、違法性はないと主張し、被告は、同人作成の陳述書(<書証番号略>)及びその本人尋問において、被告が、瀬田に対し、電話が通じず、家を訪問しても不在のため連絡が取れず、かつ、瀬田から境界問題について明確な回答が得られなかったこと、原告がでたらめな人であったことから、瀬田が原告の言うことを聞かずに、円満に境界問題を解決してほしいとの気持ちから、真相を伝え、右問題が円満に解決することを願って本件各私信を書いたこと、調停申立ての際、被告が真の紛争の相手方は、原告であると考えていたところ、被告代理人から、瀬田を相手方に加えるが、気を悪くしないよう瀬田に言うよう指示を受け、瀬田にその旨言ったことを記載、供述し、<書証番号略>によれば、本件私信(一)には「瀬田さんとは争いたくないと思っております。」、「境界点を一日も早く明示して下さい。」との記載があり、また、本件私信(二)にも「ご連絡のあるのを期待致し、円満な解決を希望致しております。」、「只今のままですと本訴をしなければなりませんが、本訴をせずに円満に境界問題を解決したいと心から望んでおります。」との記載があることが認められ、右事実によれば、被告が本件各私信を発した目的が、本件賃借地についての紛争について、瀬田との間の円滑な協力関係を得るためであったと認められる。そこで、本件各私信の争点に係る事実の真実性(真実性の根拠)について判断する。
3 本件各私信に記載された事実の真実性(真実性の根拠)について
(一) 本件私信(一)中の争点に係る事実の真実性(真実性の根拠)
(1) 被告は、その本人尋問において、被告が経営していた建築資材販売店に買い物に来ていた有賀工務店の豊田某(以下「豊田」という。)から、直接、原告に違反建築が多い旨を噂として聞いたこと、有賀工務店の有賀源一郎(以下「有賀」という。)やその妻から、原告との紛争が起きた後、同様の話を聞いたことを各供述する。
しかしながら、<書証番号略>及び原告本人尋問の結果によれば、原告が、右事実について有賀夫婦に問い合わせたところ、有賀夫婦は、「記」と題する書面(<書証番号略>)を作成し、「私どもは長井氏のことは何一つしりません」、原告の違反建築に係る事実を「言ったことは絶対にありません。」と記載したと認められること、原告は、その本人尋問において、有賀工務店とは取引等の関係はないと供述していること、豊田と電話で話したところ、豊田が、原告の違反建築に係る事実を言ったことを否定したと供述していることに照らし、被告の右供述は措信し難い。
(2) また、被告は、原告の違反建築の例として、原告事務所が建ぺい率、容積率について建築基準法に違反しているとして、<書証番号略>を提出、援用するが、<書証番号略>によれば、原告は、昭和五九年、原告事務所を増築した際、その敷地面積を土地の合筆によって拡大しており、現在の敷地面積185.90平方メートルを基準に計算すると、原告事務所は、建ぺい率、容積率の各規制に適合していると認められ、<書証番号略>は採用し難く、他に原告事務所が建ぺい率、容積率の点で建築基準法に違反しているとの事実を認めるに足りる証拠はない。
(3) さらに、被告は、その本人尋問において、平成三年六月一四日ころ、板橋区議会議長大野喜久雄とともに、同区の建築課を訪れ、その後、同課の堀口某監察係長から、原告は、原告事務所の建築確認を取っていないことを聞いたことを供述するが、<書証番号略>及び原告代表者本人尋問の結果によれば、原告は、昭和五二年の事務所の建築に際して建築確認を取得していることが認められる上、<書証番号略>及び原告本人尋問の結果に照らしても、被告の右供述は採用することができず、他に原告の違反建築が真実であること、又は真実であると信ずることにつき相当な根拠が存したことを認めるに足りる証拠はない。
(二) 本件私信(二)及び本件私信(三)中の争点に係る各事実の真実性(真実性の根拠)
被告は、その本人尋問において、昭和六三年四月ころ、田中から電話があり、本件私信(二)及び本件私信(三)中の争点に係るに記載した事実を聞いたこと、田中から、原告が田中に対して日本大学建築科出身であると言ったと聞いたことを各供述しているところ、
(1) <書証番号略>、被告本人尋問の結果によれば、田中が、前示一4の原告との間の境界確定訴訟において、準備書面(<書証番号略>)を提出し、後日、これを被告に送付したことが認められ、右準備書面には、田中が、原告に対し、原告を庄九郎と呼称して「庄九郎、お前には良心とか信義とかいうもののかけらもないではないか。学歴を詐称して一級建築士をとったり、あちこちで言い掛かりをつけては喧嘩ばかりして、恥ずかしいとは思わなんのか。」と述べたこと、「ここ数年間に原告が係争地部落内で、隣地所有者に仕掛けた争いは、被告との件も含め四件発生している。」との各記載があり、また、<書証番号略>及び被告本人尋問の結果によれば、原告は、高千尋常高等小学校を卒業したこと、原告は、設計者の任意団体である東京建築士会に入会しているところ、その会員名簿(<書証番号略>)には、原告の学歴として新潟工と記載されているが、原告自身が、その訂正を申し入れたことはないことが認められる。右の事実によれば、田中が、前示の訴訟において提出した準備書面記載の事実については、訴訟上公開された情報であり、これを真実と信ずるに相当な根拠が存するというべく、この事実を基とする前示第二、一2(二)(1)、(三)(1)のうち冒頭から四行目の「そうです。」までの事実、学歴に関する事実については、主要な点について、真実性(真実性の根拠)についての証明があったというべきである。
(2) しかしながら、その余の事実中、本件私信(二)及び本件私信(三)中の、原告のいとこの現坂本工務店の社長が、原告が坂本工務店の得意先を荒らしているため怒っているとの事実については、<書証番号略>によれば、同工務店を営む坂本源一郎が、「上申書」と題する書面(<書証番号略>)作成し、同人は田中を知らず、原告が同工務店の得意先を荒らしているため怒っていると述べたことはない旨の記載をしたことが認められること等に照らして、原告が坂本工務店の得意先を荒らしているとの事実が真実であるとは認められないし、これを真実であると信ずるに相当な根拠があることを認めるに足りる証拠も存しない。他に、その余の事実について、これを真実であると信ずるに相当な根拠が存したと認めるに足りる証拠はない。
三本件準備書面について
1 弁論主義を基調とする民事訴訟においては、当事者が、その信ずるところを自由に主張し、これを尽くさせることが重要であって、それが訴訟を活性化させ、訴訟上の真実の追求に役立つものである。そして、この見地に立って検討すれば、一方当事者の主張が、その表現が激烈で相手方の名誉感情等を損なうようなものであり、その後の審理等において右主張事実が真実であると認定できなかったような場合でも、直ちにこれをもって名誉毀損として違法と評価することは相当でないというべきである。したがって、訴訟上の主張については、その主張が一見妥当性を欠くようにみえても、その当事者において、特に故意に、しかも専ら相手方を誹謗、中傷する目的の下に、粗暴な言辞を用いて主張を行ったような場合等特段の事情がない限りは、原則として違法性は認められないと解するのが相当である。
2 本件準備書面について、被告は、その本人尋問において、原告が、原告及び立花の各土地の境界線について原告と立花との間でトラブルとなり、被告は、この事実に関連して日産商事不動産株式会社の坂口数幸から<書証番号略>(契約書)、<書証番号略>(覚書)を受領したことを供述しており、<書証番号略>(契約書)、<書証番号略>(覚書)によると、原告(ないしは原告の前の借地権者である島野忠)と立花との間で土地の境界線について紛争が存したことを窺わせる内容が記載してあることが認められる。一方、館野倉次(以下「館野」という。)との紛争については、被告本人尋問の結果中には、原告が、館野の妻に対し、両者の土地の境界線上に原告がブロック塀を建てたいと申し出たが、これを館野が断ったため紛争となったこと、その後、原告が館野の妻をひどい話のわからない女だと言ったことを供述する部分があるにとどまり、右紛争の存在及び具体的内容並びにそれらの真偽は、本件証拠上明らかではないというべきである。
しかしながら、<書証番号略>(本件準備書面)によれば、被告訴訟代理人が、別件において、原告である瀬田から証拠として提出された鑑定報告書について、これに記載された鑑定手法によることが不可能又は不相当であることを主張し、境界点及びこれらを結ぶ境界線の特定が不当であるとの被告の主張を行う過程で、これを示唆する間接的な事実として、これら付近で本件原告と立花、館野の間で争いがあることを摘示したと理解される体裁となっていると認められ、右主張をするについて被告に別な目的があったとは認められず、換言すれば、故意に、しかも専ら相手方を誹謗、中傷する目的で、粗暴な言辞を用いて主張を行ったような事情等本件準備書面の記載を違法と評価すべき特段の事情があるとは認められない。そうであれば、被告において、本件準備書面を作成提出したことについて違法性は認められないというべきである。
そうであれば、被告が、第二・三において主張するその余の点については、判断の要を見ない。
四原告の損害
原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、建築設計業は、不動産を扱い、その業務の正確性、信用がとりわけ重視され、建築設計に携わる者にとっては、違反建築がある等と言われるような事態は、その業務に支障が生じかねないとの不安を与えるものであると認められ、被告の本件各私信が送付され、原告の名誉を侵害する事実が瀬田に告知されたことによって、原告は、精神的苦痛を被ったものと認められる。一方、本件各私信は、いずれも瀬田に宛てた私信であり、本来秘密性が保持されるべきものであり、原告代表者本人尋問の結果及び<書証番号略>によれば、瀬田は原告以外の者にはこれを開示していないことがうかがわれ、右事実は、原告の損害を判断する上で軽視できない事情というべきである。以上の事実に、原告の地位、職業、前示一の本件の経緯その他諸般の事情を総合勘案し、原告の被った精神的損害を慰謝するには、金三〇万円をもって相当と認める。
第五結論
以上の次第で、原告の本訴請求は、金三〇万円及び不法行為の後である平成三年六月一四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。なお、仮執行の宣言は、相当でないので付さない。
(裁判官深見敏正 裁判官内堀宏達裁判長裁判官筧康生は、転官のため署名押印することができない。裁判官深見敏正)